そのうちがんばる。

── ただのメモ。DTPとかプロレスとかMacとかiPhoneとか。

鳥海修の文字塾 第2回(2013-11-24)についてのメモ書き(前編)。

 10月から12月まで3ヵ月連続で行われる「大阪DTPの勉強部屋」主催による、字游工房・鳥海 修さんの文字塾。その第2回のレポート……というかメモ書きです。

 鳥海さんの言葉の引用を中心に、今回はその前半をお届けします。


【注】 第1回と同様、そもそもの理解度が低い、ものすごーく頭の悪い人間が書いてます。本人としては真面目に書いてるつもりですが、内容についてはあまり信用してはいけません。ご了承くださいまし。


 では、どぞー。



f:id:masa-m:20131207210517j:plain:w300,right 11月はいつものメビック扇町が使えないということで、今回のみ、新大阪駅すぐ近くにある「新大阪丸ビル新館」というところでの開催となりました。たまに別のところでやるのも、なんか新鮮でいいですねー。


 さて、前説も見事ぴったり予告通りに終わり、いよいよ本番。最初に大阪DTPの勉強部屋・宮地さんが確認したところ、この第2回目が初めてという方もけっこうおられたみたいでした。
 第1回も楽しかったので今回も期待したい、絶妙な語り口をたっぷり堪能したい、という宮地さんの挨拶の後、本編がスタートしました。

「鳥海です。昨日、金沢から帰ってきたばかりで(笑)」

 前説と同じ所から入るという軽いジャブから(笑)、今回の本題に入っていきます。

●鳥海 修の文字塾 第2回『活字のコンセプト』

「今日は4つの書体──ヒラギノ書体、游明朝体、游ゴシック体、キャップスの仮名について、どんなコンセプトを立てて、それをデザイン的にどう処理をしたのか、ということを話そうと思って来ました」

f:id:masa-m:20131207093334j:plain:w300,right

ヒラギノ書体については以前別のところで話したことがあって、そのときの資料を使います」


「(スクリーンの資料に書かれている)「ヒラギノ1993〜2001年」っていうのは、その書体が発表された年です。だから、制作っていうのはもうちょっと前に始まっているという風に見てください。最初にStd版を出して、今はPro化したものを出して。
 游明朝体、游ゴシック体についても同様です。
 ただし、キャップスの仮名については、一般販売はしていないので、この年に制作し、発表したっていう感じです」

●︎ヒラギノ書体

ヒラギノには、ヒラギノ明朝、ヒラギノ角ゴシック、ヒラギノ丸ゴシック、UDのついたヒラギノヒラギノ行書があるんですけど。
 ヒラギノがつく書体は、すべて字游工房が制作しました」


「今日は、ヒラギノ明朝体をベースに話をしようと思います」


f:id:masa-m:20131207093523j:plain:w300,rightヒラギノ明朝体はW2からW8まで、ヒラギノゴシック体のW1からW9まで、丸ゴシックが偶数でW2、4、6、8。それから行書と特太行書。


 で、Std──スタンダードというのは1000字くらいの文字セットで、Pr6──Adobe Japan 1-6は23000字の文字セットになっています。Macにバンドルされているのは、AJ 1-5。


 他に、一緒に使える仮名ということで、明朝体の場合は、游築(ゆうつき)五号仮名、游築36ポ仮名というのが、それぞれのウェイトごとに用意してあり、角ゴシック体には、游築初号仮名とAD仮名のふたつが用意されています」

f:id:masa-m:20131207093522j:plain:w300,right

「これ、どれくらいの数になりますかね、字数にして。
 Stdというのが1万字。Proを2万字とすると、26万字ですよ。26万字……。


 (反応が薄い会場に)驚かなくなっちゃった、みんな(笑)。麻痺しちゃってるんだよ、みんな。
 こないだ、100万字作ったって言っても、だーれもなんとも思わない(笑)。コンピュータですぐ作れるだろうって思ってると思うんだー(笑)。そんなことないんだからね(笑)」

ヒラギノを作るまでの経緯

「僕たちは1989年、平成元年に字游工房を作って、その直後くらいにヒラギノの話があったんですけど。もちろん、ヒラギノという名前ではなくて」

大日本スクリーンさんは、当時モリサワさんからライセンスを受けていて。
 自分のところでも組版をする機械を持っていて、それにライセンスされたモリサワの書体を使っていた。
 それがちょっと高い。高いっていうか……」


「これは聞いた話で違ってるかもしれないけど、モリサワさんが大日本スクリーンに提供するのは、文字盤を提供するっていう話だった……らしいですよ。
 提供された文字盤を、大日本スクリーンの方で「ショートベクトル」っていうアウトラインにして使用してた。ショートベクトルっていうのは、今みたいなカーブじゃなく、短い直線で構成されるアウトラインです。
 なので、ライセンス料が高い割に、手間もかかるし文字も汚い。なんとかならないかっていうことになった。
 ……という風に、僕は聞きました」

「僕たちは仕事なかったですからね。
 字游工房立ち上げた時に、最初に仕事をいただいたのはキヤノンさんで、ご祝儀ってことで、いっぱい仮名の試作をさせられて。それでお金もらって。
 「あーこんな風にやれるんだったらいいよね」なんて、ほくそ笑んだ覚えがあるんですけど。今思うとしあわせな……能天気な数ヶ月だったように思います。
 とてもそれで暮らしていけるような金額ではなかったんですけど、嬉しかったですね」

「そのうち、大日本スクリーンさんから、こういうことで自前で書体を持ちたいという相談を受けて、そりゃあおもしろいな、是非やらせてください、となって。
 大日本スクリーンの偉い方とお会いするんですけど。
 ただ、偉い方って言っても、俺らより偉い人ってことで、そういう人はいっぱいいるんですけど」


「そこで初めて行ったんですよ……料亭(笑)」

●接待とヒレ酒の話

 完全に脱線なのですが、えらいおもしろかったので再現します(笑)。

字游工房っていうのは三人で作ったんですけど。鈴木勉、片田圭一、鳥海。三人とも写研を辞めた人で。
 鈴木が俺より……何歳上だったんだろう、5歳くらい? 上だったと思います。
 片田は俺よりも2年下。学年は一緒で社研に入った年も一緒なんだけど、僕が二浪してるもんですから。片田は頭いいので現役で入ってきてて。
 で、その三人が広い座敷に座らされてね、接待を受けるんですけど」


「それで、僕たちはお酒が好きなんです(笑)。
 なんかねぇ、湯呑みに入ったお酒が出てきて、「なんだこれ? すごい美味い!」って思って。
 とにかく俺たち緊張してしゃべれないわけで、おたがい目で「これ美味い」「美味いな」って、阿吽の呼吸で三人とも美味いって思ってるのがわかったんですけど。
 ところが、大日本スクリーンの接待してくださった方は、お酒呑まない方だったんです。中居さんが「お代わりいかがですか?」って来たのに、「もうけっこうですよね」って言われて(笑)。
 俺たちも、初めてだししょうがないかぁって……。はい、はいって」

「その後で、なんだあの酒は、となって。
 で、ヒレ酒というものらしい、というのがわかるわけですよ。
 でも、ヒレ酒ってなんだろうっていうことになって。インターネットとかなかったですからね。
 それで、エイヒレだと思ったんですよ(笑)。
 買ってきて、焼いて、お酒に入れて呑むんだけど、生臭くって呑めないんです(笑)」


「なんだったんだろうって言ってたら、誰かがどっかで、あれはフグのヒレらしいって。
 そしたらね、品川駅の構内に、500円くらいでけっこういっぱい入ったフグのヒレが売ってたんですよ。
 これだこれだって。買って帰って、それからは毎日5時になると、あぶって(笑)。どっかの営業マンが来たりすると、俺たち呑んでるもんだから、おいでおいでって盛り上がるっていう。
 よくわかんないことやってたんですけど」


「えーっと……そういう接待をうけたんです(笑)」

ヒラギノ作成前のコンセプト

「で、まず作るにあたって、企画書を出してくれって言われたんですね」


大日本スクリーンには、今までライセンスを受けてた書体はあるんだけど、初めて大日本スクリーンが書体を持つにあたって、何をなすべきかってことを考える」

「まぁ、僕たちの考えることは決まってて、やっぱり明朝、ゴシックだろう、という風に決まるわけですよ。
 やっぱり明治からずーっと繋がってる明朝体が、本文(ほんもん)書体としては絶対譲れないところだし、それの見出しとしてのゴシックっていうのは、やっぱり譲れないものだし。その両軸は絶対必要だと。
 ベーシックな書体ほどきちんと作っていかないと、なんていうか、持ってる書体がダメになると思ったんですね」


「とにかく明朝体ゴシック体、丸ゴシックも含めて、ベーシックな書体はきっちり作んなきゃダメだってことを企画書に書いて。
 その他には、楷書とか行書、隷書……ま、写研にあったベーシックな書体をラインナップしたんだと思います、そのときは」

f:id:masa-m:20131207093855j:plain:w300,right

「それで、明朝、ゴシックでやるのはいいけど、じゃあ、どんなデザインにするか、ということになるんですね」


「デザインを考えるにあたって、大日本スクリーンが他の会社と違うところはなにかというのを考えていくんですけど。
 まず、大日本スクリーンというのは、印刷機材の総合メーカー、みたいなところがあって。組版装置も作るけど印刷装置も作るっていう。で、白黒の印刷装置よりは、カラー印刷に向いた機械。スキャナもそうだし。
 そういうところで有名だったらしいので、カラー印刷向けの書体を作ろうっていうことを考えました。
 (スクリーンに表示されている)「字游工房の考え」っていうところの、「画像と文字の融合を考える」ですね」


「それで、先行制作書体としては、ビジュアル雑誌・カタログ向けのスタンダードな書体を作るってことで。
 カラー印刷を得意としている会社が、その機械にその書体を入れて売るためには、やっぱりビジュアル雑誌やカタログ向けのほうがいいんじゃないかって考えたんです」


「だから、このときは小説を組む単行本であったり文庫本であったり、いわゆる「文字物」に使われるような書体、というような考え方はなかったです」

f:id:masa-m:20131207093856j:plain:w300,right

「『日本において明朝体ゴシック体の使用頻度が極めて高い』
 ……うん、そうなんです。高いんです。もう圧倒的に。
 『ベーシック書体の品質が書体ライブラリの価値を決定づける』
 ……そうです。今でも一緒です。
 『ベーシック書体の品質が印刷物の価値を左右する』
 ……はい、そう思います。
 『DS(大日本スクリーン)にとって顔となりうる書体』
 ……はい」


「いいこと書いてますねぇ、これ(笑)。随分前に書いたんですけどね」

「ちょっと前後するかもしれませんが。
 僕らはそういう風に決めたんだけど。ただ、大日本スクリーンさんには、文字のことがわかる人が誰もいないんですよ。口は出すけど、わからないっていう感じでした。……ごめんね(笑)。
 なので、「わかるような資料を出してくれ」って言われるんです」


「僕たちは、書体について人を説得するための資料っていうのは、考えたこともなかったし、どうやって作っていいかわかんなかった。「見ればわかるだろ」みたいな。
 「これいい書体だろ」「見ればわかるだろ」っていう風に思ってたんだけど、「いやいや、それじゃダメだよ」と。
 なんとか「文字をあんまり知らない人でも納得できるような資料を作ってくれ」って言われて。
 これに苦労したんですよ、実は」

●商業印刷物の調査結果から割り出されたコンセプト

f:id:masa-m:20131207094200j:plain:w300,right

「まぁとにかく調査しようっていうことで、商業印刷物調査。
 カタログ、パンフレット334冊を、平成元年かな、平成2年くらいじゃないかな、調査をしたんです。
 で、パンフレット一冊に使われる書体数が、平均7.5書体あったんですよ。
 どのような書体が多く使われているかを抽出したのが107書体。107書体に集約されてるってことなんでしょうね」


「本文、小見出し、大見出しの書体の頻度は、107書体の内訳っていうことで、
 明朝体40%、ゴシック体36%、丸ゴシック体12%、筆書・その他12%。
 本文書体の割合が、明朝体40%、ゴシック体40%、丸ゴシック体20%。
 ということで、だいたい明朝・ゴシック・丸ゴシックで、ほぼ……なんですねぇ。
 ……ホントか、これ? 筆書・その他ってのはないのかなぁ。ふぅ〜ん?(やや疑わしそうに)」


「で、書体別使用頻度ということで、本文の場合は、石井中ゴシックが24%、中明朝が23%。
 なんと、すでに平成元年〜2年の時代に、雑誌の本文としては、ゴシックの方がいっぱい使われてたっていうことですね。
 ただ、文字数に換算するとわかんないけど。これ、どうやって数えたか忘れちゃったんですけど」


「(資料を見ながら)うーん、見出しのゴナの出現頻度っていうのが、ものすごい高いですね。まぁ、そういう時代です」

f:id:masa-m:20131207094253j:plain:w300,right

「書体の現状把握っていうことで、既存書体の分析。写研・モリサワリョービ、三社の明朝・ゴシックを調べた、と。


 イメージの把握、完成度などなんですけど。これは、俺たちが勝手にやったことなんで、すごく主観的なことが多々あります。「100人に聞きました」じゃなくて、「3人に聞きました」(笑)。
 それに、今の感覚とはもしかしたら違うかもしれない」

f:id:masa-m:20131207094419j:plain:w300,right

 こうして様々に調べた結果、ヒラギノのデザインコンセプトは、

  • 現代的なスタイルであること
  • しかしスタンダードであること
  • カタログやビジュアル雑誌に使うことを前提とする
  • 均一なトーンになることを優先させる
  • 画像と組み合わせる書体なので複数の太さ(ファミリー)を用意し、同一紙面での統一的な組版イメージを実現する
  • 縦組み・横組みに最適される

 となったことが、紹介されました。

f:id:masa-m:20131207094421j:plain:w300,right

「(書体イメージの図を見ながら)
 これ、いろんな書体ごとにやってったんですよ。
 ここには主だった書体だけちょこちょこっと書いてあるんですけど、107書体について全部、まぁ3人でですけど、「この書体はこのへんだよね」「そうそうそう」って言って印をつけていきました。
 ここにあるやつはほとんどが本文書体なんですけど、」


「このチャート自体は、講談社のちっちゃい本に、色のイメージを表してるチャートがあって、これ使えそうだってことで、ちょっと借用したんですけど」


「本蘭明朝がこのへん……フォーマルとかモダンとかスマートとか。石井明朝が、しなやか、やさしい、エレガント、シックじゃないかなぁ、とか。ゴナはカジュアルとか、ナールはプリティとか親しみやすいとか、まぁ、こんなですよ。
 それで、実はここ。ここがなかったんです。「若々しい」とか「クリア」とか「洗練された」ってとこの明朝体ってないよね、ってことになって」


大日本スクリーンは、初めて書体を出すんで、あんまりクラシックなもの出してもなーってこともあって、若々しい、さわやか、クリアでいこうっていう風に考えたんです」

ヒラギノ書体のデザイン

 続いて、実際のヒラギノ書体のデザインについての解説に移っていきます。

f:id:masa-m:20131207094712j:plain:w300,right
 今回の解説の中心となる「ヒラギノ明朝体」のデザインは、以下のようになっているとのこと。

  • 字面は相対的に大きめに設定する
  • 漢字のエレメントは硬質で張りのあるものとするが、幾何学的になりすぎないように注意する
  • 重心は中庸かやや高めに設定する
  • ウェイトは9つとする(現状は7)
  • 仮名は縦用と横用を制作する
  • 仮名の線は上代様仮名(じょうだいよう・かな)のイメージを継承する
  • 欧文はオールド・ローマンをベースとし、エレメントは和文に合わせる
  • 字面:、漢字>平仮名>カタカナ>アルファベット
  • 強さ:アルファベット≧漢字≧仮名

「わかります、これ? よくできてますよ(笑)。
 どこがわからないですかね」

 ということで、以下、個々のデザイン要素について解説が進んでいきます。

●字面の大きさ

「「字面が相対的に大きめ」というのは、何のためかというと……」


「例えば小説とかの長文を組むとき、平仮名だけ考えたときに、平仮名の文字間はちょっと空いてるほうが読みやすいんですよ。べたべたくっついてるっていうのは、あんまり読みやすくない」


「で、文字をちょっと大きくすることによって、読みにくくはなるんだけど、組んだときのパラパラ感がなくなるっていう、そういうメリットもあるんです。
 カタログとか、短い文章を組むとき、また、横組を組むとき、パラパラしない。
 絵があって、それに対応するように文章が箱組されたときに、グレーなスペースとしてキレイに見えることを考えたんです」


「だから、読みやすさよりも見た目がキレイっていうことを選んだんです。
 ちょっと極端かもしれないけども、そう理解してもらってそんなに間違いではないです」

●漢字のエレメント

「「漢字のエレメントは硬質で張りのあるものとするが、幾何学的になりすぎないように注意する


「なんで硬質にしたか。硬質ってナニ? 硬質っていうのは……あのぉ……硬いってことですよ(笑)。そうなんだよなぁ……(言いよどみながら苦笑)」

 ここから、ホワイトボードに書きながらの説明が加わっていきます。

f:id:masa-m:20131207094831j:plain:w300,right

「例えば、明朝体の縦線とかね。


 (まっすぐな縦線を描いて)こんな風にすると、すごく単調な線になっちゃうんですよ。機械的な。おもしろもくもなんともないのね。
 (微妙な曲線で構成された縦線を描いて)例えば石井明朝っていうのは、極端に書くとこんななんですよ。筆の「起筆」と「送筆」と「止めるところ」が、きちんと表現されてる。


 ヒラギノは、(両者を比べながら)ここまではいかないけど、ここまででもない。ちょうどこの間にある感じ。
 (まっすぐな方の縦線をいじりながら)ここらへんにこうアクセントつけて、ここを少ぉし丸くして、こっちにもアクセントつけてっていう、そういう形にしてるんです」


「これをすることによって、若々しさ、爽やかな感じ、モダンな感じが表現できるのではないかって考えた結果が、これなんです」

●重心

「「重心は中庸かやや高めに」っていうのは、重心が少し高いと、若々しくなるんですよ。
 重心が低いと、ちょっとおじさんっぽくなっちゃう。それはわかりますよね?」

●ウェイトのバリエーション

「「ウェイトは9つ」っていうのは、いろんな画像に対して文字を組んだときの濃度が、弱いのから強いのまでいっぱいバリエーションを持たせられるってことで、多いほうがいいだろうってことで、9つと設定しました。
 最終的には、「W3からW8まででいいよ。細いやついらない」って言われて、「まぁ、そうだね」と。その後で、W2だけは作ろうと追加されて、現状は7つということになっています」

●横用の仮名の必要性

「「仮名は縦用と横用を制作する」っていうのはね、「仮名の線は、上代様仮名のイメージを継承する」ってのと、ちょっと結びつくんですけど」

 ホワイトボードに、仮名の見本を書いていく鳥海さん……なんだけど。
 以下の説明は、ほとんどが「こうやって書くんですよ」と言いながらボードにしゅしゅっと書く、というのの繰り返しです。
 ライブ感がすごくあって非常に興味深くて面白かったんですが、僕がさっぱり理解できてないのも(大いに)あって、ここでの再現は不可能です。
 なので、なんとなーくこんな感じだったのかなーみたいな、いわば「雰囲気」をお楽しみいただく感じになってしまうと思います。
 …………うう、理解度が低くて、ホントごめんなさい。

f:id:masa-m:20131207095031j:plain:w300,right

「書をやってる人、ちょっと我慢してくださいね(笑)。
 たとえば「あ」だと……上代様仮名をこういう風に書くんだとすると、明朝体はこんななんですよ。……どこが違うの(笑)。うーん、なんだろうねぇ……」


「筆の種類も違ってて、こっちは面相の細い筆で、こっちは太くて短いやつを使います。
 で、こっちは側筆、こっちは直筆っていうんですけど。側筆はちょっと傾けて書いて、直筆は立てて書く。側筆は細い太いが出て、直筆だと筆の細い太いが線に出ない。
 一般的な明朝体はこっちです。ただ、これを、線を強くしたいって、僕は思ったんです」


「僕は、仮名を作るのがこのとき初めてだったんです。
 で、とにかく上代様仮名がキレイだってのは染みついてたんで、そこから何かエッセンスを取りたいと思って。
 上代様仮名のいいところは何かつったら、僕は「線の強さ」だって思ってたのね。だから、その線の強さを何とか活かしたいと思って、こういうコンセプトを立てたんです」


「上代様仮名の線を活かそうとすると、こういった線がこっちに流れる。今までのやつはこっちに流れる。そうするとね、例えば「う」とかもこんな感じになるんですよ。
 つまり、一個一個の四角の中に収まりよくなるんです。こっちは、収まんない。
 で、例えば「へ」「り」とかっていうのはこんな感じになるんだけど、こっちの考え方だとこんな風になっちゃうんです。極端だけど。
 そうすると、縦組みはいいけど、横組みはダメなんですよ。横に「へり」って組んだ時に、あまりにもガタガタして、ちょっともたないなと思ったんですよ。
 それで、縦用と横用を両方作るっていう提案をさせてもらいました」

●欧文

「「欧文はオールド・ローマンをベースとして、エレメントは和文に合わせる

f:id:masa-m:20131207095141j:plain:w300,right

「 小林 章(こばやし・あきら)さんが、アルファベットを作りました。
 この……どうする? 説明できないんだよなぁ……」


「オールド・ローマンの例えば「2」とかっていうのは、(ホワイトボードに書いて)まぁ、こんな感じじゃないですか。
 ここ(先端の部分)が、ヒラギノの場合は、こんなんなってるんですよ(丸みが抑えられた感じ?)。


 ここ、ケルンっていうのかなんなのか……ケルンって呼ぶのは間違いなんだよって、こないだ小林さんが言ってたような気がするんだけど……。


 なんていうか、こういったエレメントの形に合わせてるっていうところがあるんですよ。
 ……そんだけっ(笑)」

●「太さ」と「強さ」について

「「漢字と平仮名とカタカナとアルファベットの大きさの関係」は、こういうもんですよ、これは。普通です、考え方としては」


「……いいですか、ここまで。
 だんだん授業みたいになってきました(笑)」

 ここで、会場から質問がありました。まさに授業!(笑)

質問者「先生、強さのところなんですけど。字面と強さで、仮名とアルファベットが逆になってるんですけど、これはなにか意図があるんでしょうか」

「ああ、そうなんです。逆になるんですよ。……これで終わっちゃうとマズイな(笑)」


「漢字、平仮名、カタカナ、アルファベットの4つの文字については、大きさと強さは逆になります。
 それは、昔からそうだったんです」


「たとえば、難しい字……んー……「鬱になる」って(笑)書いた時に、「鬱」って文字は大きいじゃないですか。漢字は大きいんですよ。大きいんだけど、漢字を強く書くと、仮名が追いつかないんです」


「皆さんがメモとか手紙とか書くときも、ほぼ誰でも漢字は大きくて仮名は小さくなると思うんです。
 今はボールペンやサインペンで書くと筆圧が同じだから、太さの差はつかないと思うんだけど、筆で、楷書で書こうとすると、漢字に対して仮名が強くなる。そういう風にしないと、もたないんです。
 たとえば、賞状とか」


「賞状の文章は、漢字を大きく仮名を小さくして、仮名を強くしてやるんです。で、カタカナは実はもっと強いんです。アルファベットは小文字もあるので、さらに小さくなって、倍ぐらいの太さの違いを出さないと、もたないんですよ。
 だから、皆さん小説とか見るときに、ちょっと気をつけて見ると、きっとそうなってます」


「「強さ」と「太さ」ってのがあるんですよ。
 太さは今言ったみたいな感じなんですけど、強さは、太さともリンクするんですけど……うーん。
 (強さのところで「アルファベット≧漢字≧仮名」となっているのを指して)ここにイコールがあるじゃないですか。結局、みんなフラットに見えるような作り方をしたいって思ったんです」

質問者「強さというのは、先ほどおっしゃった『グレートーンにする』ためにエレメントとか見せ方を、似たような感じにするために強さを調整する、そういう意図を持たれたということでしょうか」

「そうです。
 実は本蘭明朝っていう、写研の中では一番新しい書体があるんですけど、その書体はすごくフラットなんですよ。漢字も仮名もほぼ同じグレートーンなんですよ。
 それよりは、少し漢字を目立つようにしたいと思ったんです。
 あまりにもグレーにきっちり統一されたものよりも、少しだけデコボコ感があったほうがいいんじゃないかって風に思ったんです」

質問者「それは、第1回でおっしゃってた、漢字と仮名の大きさやちょっとした強さのリズムによって読みやすくなるっていう話に関係してるんでしょうか」

「はいはい。関係してます。そうですそうです。
 さっき、フラットとは言ったんだけど、そんなにフラットではないっていう。ちょっとデコボコ感があるっていうのは、考えてました」

 というあたりで、回答は終わり。
 ナイスな質問でしたねー。おかげですごくわかりやすくなりました。こういうのも、実にありがたいですねー。

●各明朝ファミリーのウェイトの比較

f:id:masa-m:20131207095252j:plain:w300,right

「このグラフはね、ただ直線で綺麗でしょっていうくらいのものです(笑)。あんまり(意味が)ないんだよね。
 たまたま直線を引いて……なんて言えばいいんだろうなぁ……キレイにグレーがだんだん強くなっていくのを見せようとしたら、あ、こうなった、みたいな(笑)」


「たとえば、石井明朝体っていうのは、もともとこうなるように作ってないんですよ。
 作ってないっていうか、無計画……無計画? うーん(笑)、なんていうんだろう……。
 (石井明朝体の)Mっていうのが昔あって、Lっていうのを大漢和辞典のときに作って、その後もうちょっと太いのって言われてBを作って、最後にEを作るっていう、そういう作り方をしていて。
 別にグラフを書いて作ってたわけじゃなくて、最終的にこうなっちゃったっていうことなんです」


ヒラギノの場合は、ある程度ファミリー化っていうのはわかってたんだけど、どこを取るか、もしかしたら、こういう曲線になるかもしれないし、こういう線になるかもしれないんですよ。
 それで、いろいろ試作したら、グラフでほぼ真っ直ぐな感じが一番キレイだねっていう風に判断したっていうことです」


「でもね、この線が真っ直ぐだからいいとか、そういうことはないです、全然」

f:id:masa-m:20131207095422j:plain:w300,right

ヒラギノ明朝体の場合は、W1、W2っていうのは作らなくてもいいんじゃないかっていうことで、W3とW8が一番細いのと太いのってことで、この2書体から作りました。
 それで、コンピュータの「IKARUS(イカルス)」っていうソフトで補完をとって、それで間のウェイトを生成、それを修正して、それぞれのウェイトに仕上げるっていうことをしました」


「いいのか悪いのかわかんないですけど。
 たとえば小塚明朝っていうのは、ボディと字面の関係が、細い書体も太い書体も同じっていう風にしてるんです。
 そういう書体が中にはやっぱりあるんですよ。
 ここ(W8の字面の比率)の「94%」っていうのが、(他のウェイトも)全部94%になる、みたいな、そういう作り方をしてるんだけど」


ヒラギノは、「見かけ上の大きさ」を合わせようとして、太いものはちょっと大きく、細いものは少し小さくっていう風に設計してます」

●横用の仮名についての考察

f:id:masa-m:20131207114733j:plain:w300,right

「横用の仮名なんですけど。


 上が縦用の標準の仮名で、下が横用の仮名。
 赤い印をつけているところが、少し空間が開いて見えるということで、横用の仮名を作るときは、「く」を広げたり「り」を広げたりしてるわけです。
 全部の文字に対して手は入れてるんですけど、大きくは、赤で印をつけたものに処理をしてると」

「でもね、これは、あんまりよくない。この考え方はよくないです。
 こういう風に作ったけど、今にして思えば(笑)、よくないよ、これは」


「キレイには見えるんですよ。キレイには見えるんだけど……(長い間)……よくない。
 「abさんご」っていう小説が芥川賞取ったでしょ(※黒田夏子 著。2013年 第148回芥川龍之介賞を受賞。史上最高齢の芥川賞受賞者)。
 あれは横組みで組まれてるんだけど、俺、あの「abさんご」を見た時に、「あー、これ、横組み用の書体作れる」って思ったんですよ。
 でも、それは、「こういう横」じゃないです」


「これは上下のラインをすごく意識した書体で、確かにキレイには並ぶ。
 でも、キレイに並んだものがホントに読みやすいのかどうかは、ちょっと別。
 やっぱり、「へ」「り」みたいな、(見本の)上の「へ」「り」よりも下の「へ」「り」のほうがキレイじゃないですか。……あ、そうでもない?(笑) そうでもないって言われると、どうしようもないんだけど……。僕はキレイだと思うんですよ」


「文字の、特に仮名のスタイルには、僕は、固有の形っていうのが絶対にあると思うんです。
 「り」が細長いとか「へ」が平べったいとか、そういう固有の形が絶対にあって、それを壊すような文字の作り方は、結局、あんまり読みやすくなんないんじゃないかなぁ、っていう風に思います。
 ちょっとねぇ、下品になっちゃうんですよ」

「でも、じゃあ、だったら、固有の形を守って、縦用の仮名のまま横に組めばいいじゃないかっていう話になるんだけど、それもまた違うんだよね、と思います。
 じゃあ、どうすんだよ……というのは今日のテーマではないので(笑)、まぁ、「続く」っていうことでね」

ヒラギノ明朝体の漢字・仮名・欧文

f:id:masa-m:20131207115407j:plain:w300,right

「先ほどの、どれが強くてっていう話につながるかもしれないんだけど、ヒラギノの場合はこんなです。漢字と平仮名とカタカナとアルファベットの関係」

●書体のデータ化

f:id:masa-m:20131207115454j:plain:w300,right

「(書体見本を表示して)これはねぇ、全部手で書いたんですよ。6,300字。細いのと太いの。
 第1回のとき、原字を持ってきて、ちょこっと見せましたけども。全部手で書いたんですよ」

「俺たちは、コンピュータってのは使いたくないっていうか、全然使えなかったんですよ、当初は。
 で、写研の時みたいに、紙に筆と墨で書いたものを納品することによって、「僕たちの仕事はこれで終わり」っていう風に思ってたんですけど。
 ところが、大日本スクリーンさんも俺たちと同じように、アウトライン化するってのが初めてで、「文字はこうでなければいけない」みたいな、ルールみたいなのが全然わかんないんですよね」


「たとえば、こういう横線だとか。普通に考えれば、水平線でしょ、って思うじゃないですか。
 ところが、なにかの拍子にちょっと傾いたり、または、手で書いたときに、最初に書いた線を上に移動させたりすると、筆で移動するから、うまーいことやれば上手いこといくんだけど、直線が少しカーブしてしまったりすることもあるわけです。
 そうすると、それを忠実に再現することになってしまったりするんですよね」


「また、スキャンデータっていうのは、ドットで表すじゃないですか。
 そのスキャンデータを拡大してドットを置いていくので、なんていうか、上手いこといかないんですよ。
 「ここは単なるフラットな線でいいんだ」っていうのが、わからない。俺たちはわかるんだけど、初めてアウトラインの作業をする人は、ちょっとしたミスをそのまま活かしてしまったりするんです。
 なので、「あぁ、ダメだ、これ」と思っちゃったんですね、上がってきたデータを見て。「これ、俺たちがやんなきゃダメじゃない」ということで……俺たちがやりました」


「そのときに、大日本スクリーンさんにコンピュータを貸してもらって、URWの「IKARUS(イカルス)」というシステムを入れてもらって、それでやったんです。
 ウチの片田っていうのが、写研時代にイカルスを使ってた経験を持っていたので、割合そのあたりはスムーズにはいったんですけど」

「そうするとねぇ、紙に書いた原字って、だいたい45分〜1時間かかるんですよ、1文字。それをさらにデジタル化するにあたって、30〜45分かかってたんですよ。
 ……馬鹿みたいじゃん。大日本スクリーンさんだって、倍のお金を払ってるんですよ、ウチに。紙の原字代とデータ作成代と。
 そうすると、紙に書く意味がなくなってっちゃうんですよ」


「だから、今でも紙の原字がウチにあるんですけど、もう、紙は原字ではないんですよね。元の字ではなくて、あくまでもアウトライン化したデータが元データになる。
 ということで、ちょっと寂しいけど、ウチでももう漢字をアナログで書くことは、ほぼないです。
 こないだ丸ゴシックをやるときにちょっとやりましたけど……まぁ、ほぼないですね」

●仮名づくりの苦労

f:id:masa-m:20131207115526j:plain:w300,right

「この仮名ねぇ……この仮名は苦労したんですよ、私は。書けなくてねぇ……。
 ホントにねぇ、俺、半年やってたんですよ、これ。半年間ねぇ、鈴木社長にはなんっっっにも言われなかった。「まだできないのか」のひと言も言われなくて、じっと待ってくれてて。
 さすがにゴシック作るときは、「俺がやる」って(笑)」


「初めて俺が作った仮名だったですね、これが。
 写研時代には仮名なんて作らせてもらえなかったから、どうやって作ろうかっていろいろ試行錯誤してやるんだけども。
 写研で本蘭明朝とかやってたから、当然そういうのも染みついてるんだけど」


「これが、大日本スクリーンさんに納品してしばらくしたら、赤くチェックされたものが返ってくるんですよ。もういっぱい。もっと太くしろとか細くしろとかって。
 「鳥海さん、悪いんだけど、ある人に見せたらこういう指摘を受けましたので、どうですか?」って。
 ねぇ、ヤでしょう? 知らない人から見られるのって。なんか、知らない人から自分の裸見られて注意されてる、みたいな(笑)。
 嫌だなって一瞬思ったんだけど、指示されたものをじーっと見ると、「あぁ、確かにそうだ」っていう風に思ってしまって、直したんです」

「それを注意したっていうか指摘してくれたのが、石川 九楊(いしかわ・きゅうよう)さんっていう変わった書家の先生で。
 直して、できたってんで納品したら、また来たんですよ、赤がいっぱいついたやつが……。やっぱり「そうだ」って思って直して、また納品するんだけど、三回目は来ないんですよ。
 どうしたんだろうって思って聞いてみたら、「キリがないのでやめました」って(笑)。大日本スクリーンの人がそう言ってました」


石川九楊さんとは最近、精華大でも時々会うんだけど、たまーにそのときの話をすることがあって。
 「九楊さん、もうやめてー」って俺は言うんだけどね。「あれはねー、まだ途中なんだよー」って言われて(笑)。「もうやめよ、先生、もうやめよ」つって。「昔の話なんだからー」ってね」


「まぁ、そんなことがありました」

「でもねぇ。修正されたのがこれなんだけど。


 これを見るとね、やっぱりねぇ……まだまだだなって思うんですよ。すぐに直したくなってしまうんです。これはもう、作り手の「性(さが)」ですよね、これは。
 それで、「もっと直したいな」って言うと、大日本スクリーンの人に怒られるんですよ。「そういうこと言うな」と(笑)。他の人にも言われるんだけど。
 でも、また別の人が言ってくれるのは、「鳥海さん、あの歳だからできたんですよね」。


 確かに、今この書体作れって言われたら、絶対こうはならん。全然こんな若々しさは出ないと思う。
 これはこれで、俺が40歳ぐらいのときに書いた仮名としての、まぁ、字游工房としてかな、記念碑的な文字ということで、やっぱり触らないでおこう、と思います」

●分布図

f:id:masa-m:20131207115559j:plain:w300,right

「あ、これ、おもしろい。これ、おもしろい」

「また、いるんですよ、変な人が(笑)。その変な人が調査してくれて、許可をもらって借りてきたんですけど。
 黒いのが漢字で、緑がカタカナ……だったかなぁ。だいたい、縦軸と横軸がなんだったか全然覚えてないんだけど……(笑)」


「要するにこれは、字面を測ったやつなんですよ。(文字のデザインぎりぎりに)バウンディング・ボックスを作って、その長さを測ってる。
 平成明朝って、すごいまとまってるでしょ。つまり、平成明朝っていうのは、大きさがみんな揃ってるってことなんです。
 さっき、仮名の固有の形っていう話をしたけれども、ヒラギノはこのくらバラついてる。漢字の大きさはある程度まとまってるんですけど、平仮名・カタカナについては、かなりバラついている」


「さらにバラついてる「JK明朝」って書いてるのは、これからお話する「游明朝体」のことです。ちょっとちっちゃいんですよね」

f:id:masa-m:20131207115631j:plain:w300,right

「で、平成明朝体ヒラギノ明朝体と游明朝体を比べると、こういう感じっていう。まぁ、わかりやすいですよね」


「考え方としては、平成明朝と游明朝体の中間にあるのがヒラギノ明朝体っていう感じ。
 まぁ、当時は游明朝体がなかったので、平成明朝体ほどは機械的にならないよ、ということですね」

ヒラギノ行書について

「(時間を気にしつつも)話がそれますけど。
 ヒラギノ行書っていうのは、田中さん(田中馨さん)っていう、書家ではなくて筆耕(ひっこう)──賞状とかを書く方が書いてくれたんですけど。
 ウチの片田の隣に住んでるおじいちゃんで、すんごい上手いんですよ。もう亡くなりましたけど」


「24mmに書いてもらったやつを、写真で48mmに拡大して、ぜーんぶ修正したんですよ、馬鹿みたいに。俺たちが。
 W4のほうはけっこう上手くいったんですけど、W8のほうは、ちょっと修正しすぎたかなっていうところもちょっとあって。もうちょっとナマのままのほうがよかったかなっていう反省も、ちょっとあります」

Mac OS Xにバンドル

f:id:masa-m:20131207115702j:plain:w300,right

「この濃い部分が、2000年にMac OS Xにバンドルされた書体です」


「僕たちは関係ないんですよ。大日本スクリーンさんがAppleと契約して、バンドルするって決まって。
 2000年に幕張メッセにスティーブ・ジョブスが来て、OS Xの発表をするんです。
 なんか黒い服着てね(笑)。スクリーンに「愛」っていう文字を出すわけですよ、ヒラギノの、あれは明朝のW6かなぁ……。
 「Coooool!!」つってね(笑)。寒いのか?って(笑)」

 全然関係ないけど、この日の鳥海さんの装いも黒でした。Coooool!!

f:id:masa-m:20131207115733j:plain:w300,right

「そのときに、びっくりしたのは。
 今日は発表があるってことで幕張に行って、ちゃんと指定席に座らされて待ってたら、なんと、その発表の1時間か30分くらい前に、Appleの社員さんが俺のところに来たんです。
 これには外字とかいっぱい入ってるわけですよ。それで、「会場を驚かせるような、誰もわからないような字、なんかないですか?」って言われて。
 「いやぁ、思いつかん。思いつかーん」って(笑)」


「2000年当時は、規格としては(たぶん)Adobe Japan 1-3までしかなかった。
 ヒラギノを搭載するにあたって、Appleは、写研の「外字C」──写研の外字にはA・B・Cってレベルがあるんですけど、外字Cっていうのは、ほとんどもう「間違った字じゃないか?」って思えるようなものが搭載されてるんですけど、そこまでカバーしようっていう意気込みがあって。
 えらいいろんな人たちが関わって文字セットを決めていくんですが、このときはAdobe Japanっていう規格ではなかったんです。
 それで、AppleOS Xに2万字くらいの新しい文字セットを乗せて世の中に出したときに、Adobeが仕方なく動くんですよ。それで、Adobe Japan 1-5になっていく。
 だから、Adobeの人たちは「なんでそんなもの作るの」って怒ってました(笑)」


「でも、これで、みんなが文字を使えるようになるっていうことで。
 京極夏彦さんなんかも、このヒラギノを使って、実際にInDesignで原稿を作る、と。「漢字がいっぱいあってすごく便利」っていうようなね(笑)」

 ヒラギノInDesign京極夏彦さんの話は、2003年に大阪で開催された「iWeek 2003」での講演「ヒラギノ開発者が語る日本語DTPの世界」でも話されてましたね。ちょっと懐かしく思い出してしまいました。

ヒラギノの反響

f:id:masa-m:20131207115756j:plain:w300,right

「いろいろ書いてありますけど(笑)。
 まぁ、いろいろ……いろいろ、です(笑)」


「日産にカルロス・ゴーンが来て、「カルロス・ゴーンが率いる日産」として最初に何をするべきかって、誰かから聞いたのかゴーンが自ら言ったのかわからないけど、制定書体を作ろうっていうことで、明朝はヒラギノ、ゴシックは新ゴ、という風に決めて。
 広告もすべて、ヒラギノか新ゴで統一されている。
 広告作る人は「すごく不便だ」って言ってました(笑)」

f:id:masa-m:20131207115817j:plain:w300,right

「これは、使用量ですね。うなぎのぼりですね(笑)」




 といったあたりで、ヒラギノ書体の話はおわり。休憩に入りました。
 後半は、游明朝体、游ゴシック体、キャップスの仮名についての話になります。


 後半もものすごーくおもしろかったんですけど……いつ公開できるのかなぁ。……まだ1文字も書いてないんですよよよ。