鳥海修の文字塾 第1回(2013-10-20)についてのメモ書き(後半)。
10月から12月まで3ヵ月連続で行われる「大阪DTPの勉強部屋」主催による、字游工房・鳥海 修さんの文字塾。その第1回のレポート……というかメモ書きの後半になります。
前半同様、鳥海さんの言葉の引用を中心にお届けします。
【注】 しつこいようですが(すみません)、本人にも読めないきちゃない手書きメモを起こしたものです。加えて、そもそもの理解度が低い、ものすごーく頭の悪い人間が書いてます。本人としては真面目に書いてるつもりですが、内容についてはあまり信用してはいけません。ご了承くださいまし。
では、どぞー。
さて、休憩を挟んで、ようやく本題に(笑)。明朝体の話です。
●日本語の構成。
スクリーンに、Apple社のサイトから引用した文章が表示されました。
その中に含まれる文字は、漢字24%、ひらがな34%、カタカナ24%、アルファベット12%、記号6%という比率になっている、と分析。
「日本語には、漢字、ひらがな、カタカナ、いろいろ混ざってます。
漢字は中国から来たもの、カタカナはその派生、ひらがなは日本でできて、英文は欧米。
こんなのが普通に読めちゃう日本人の感性ってナニ?」
●明朝体の仮名とは。
「明朝体の漢字というのは、縦線が太くて横線が細くウロコがついてますよね。
じゃあ、仮名は?」
ホワイトボードにさらさらっと2通りの「あ」を書いていく鳥海さん。
「仮名も漢字と同じ様式になってるかというと、そういうのもなくはないけど、多くのものは違います。
つまり、明朝体の仮名は明朝体じゃなく、楷書になってるんです」
ここから「仮名」というものの成り立ちについての流れになっていきます。
「漢字を使い始めたのは、いつ頃でしょう。
『漢委奴国王』っていうのが来たのが、西暦60年くらい?
で、聖徳太子の頃、写経を通じて入ってきたけど、ちゃんと読めてたのかどうかはわからない」
「その後、和語を書き表すときに、漢字を変えていくようになっていきます。
まずは、漢字に日本語を当てた。たとえば、『安』『阿』『悪』を『あ』と読もうと決める。
こうして、初めて日本人は言葉を書き表すようになったんです」
「でも、書くのがめんどくさい。もっと簡単に。こうして、平仮名が誕生していきます。
当時の若い女性、おしゃれで先進的な女性たちによって作られていく。
これが、9世紀くらい。平安時代」
「このときの平仮名は、何文字かを続けて書いていました。『連綿(れんめん)』で書くのが、当時の常識。分けて書くようになるのは、ずーっと後のことです。
もともとの仮名は行書だったんです。明治の初めになって、初めて楷書になります」
●日本最初の明朝体。昔の活字。
「萬福寺はねぇ、いいんですよー。一度は行ってみるべき!
広い部屋にずらーっと版木があって、おじさんが一人で刷ってる。
でも、話しかけないほうがいいです。話が止まらなくなるから(笑)」
「中国から来た隠元(いんげん)禅師、インゲン豆を持ってきた人ですけど、その人に鉄眼が相談して、一切経を使う許可を得た。
それをバラして、上に版木を重ねて彫っていったんです。仕事のない人を使ったりして、必ずしも文字の質は高くないですけど。
泣かせるエピソードがいろいろあって……(以下、長い脱線。すごくおもしろいけど略)」
「この後、明朝体の漢字は姿を消します」
「嵯峨本(さがぼん)というのもあります。
本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ)俵屋宗達(たわらや・そうたつ)、角倉素庵(すみのくら・そあん)の3人で作った本ですけど、これは、木の活字で刷られている。
もとになる文字は光悦が書いたとされてるんですが、本当は素庵じゃないか。
どういうことかっていうと……(以下、長い脱線。おっそろしくおもしろいけど略)」
「嵯峨本は木の活字で作られていて、そのほうが校正ができたりしていいんですけど、活字で作ると(費用が)高くなるんです。木に彫るほうが簡単。で、なくなっていく」
ばさっと略してしまいましたが(すみません)、萬福寺の一切経や嵯峨本の話をされてる鳥海さんは、めちゃくちゃ楽しそうでした。
●明治の明朝体。
「明治になって、中国から明朝体が入ってきました。ウィリアム・ガンブルって人が、キリスト教のために。
これが、築地活版のもとになっていきます」
「漢字は正方形ですね。だから正方形の活字に収まる。
で、仮名はというと、連綿をぶった切って正方形に収めていました。
これってどうなの……? というのが、明治10年ごろです」
「そこから30年くらいかかって、築地前期五号ができていく。
職人さんたちが苦肉の策で作り上げていったんです。
文字というのは、突然変異でできるものじゃないんです」
●明朝体とは。
「文字というのは長い歴史の中で作られて、みんなの体の中に文字の記憶が残ってる。
キレイな文字の感覚は、みんな持ってるんです」
「石井明朝体MM-OKL。
これについて、品があると思う人? と聞いたことがあるんですが、全員が手を上げた。
みんな、感覚を持ってるんです。共通感覚はある。
目立たない文字を作ろうとするときは、そこを狙っていきます」
「萬福寺のやつ、高野切(こうやぎれ)の連綿、紀貫之の字。そういう、いろんなものが集まったものを、みんな普通に読んでるんです」
「昔の岩波の本なんかは漢字が多くてね、漢字だけを拾い読みすれば、意味が通じたりしたんです。
漢字は言葉。平仮名がそれをつないでいく」
「日本語の漢字は四角い。平仮名は、それぞれの形を尊重する。アルファベットは少し小さい。
役割がはっきりと決められていて、デザインされているんです」
●書体ができるまで。
「最初に12文字作ります。
『国』『東』『愛』『永』『袋』『霊』『酬』『今』『力』『鷹』『三』『鬱』」
「『東』の縦線の上下で四角の大きさが決まり、これが『字面』(じづら)。
『東』の『田』の大きさで、フトコロがわかります。
『永』は、永字八法ですべてのエレメントが入ってるとされてる。入ってませんけど。
『酬』は、縦線が多い例として。
『霊』は、横線が多い例として。
『今』は、ひし形になっていて、これが一番小さく見える形。
『三』は、画数が少ない。
『鬱』は、画数が多い。
など、それぞれに理由があります」
「それから、400字の『種字』を作ります。
そして、『へん』や『つくり』を組み合わせて増やしていきます。JIS第1水準、そして第2水準へ。
組み合わせるといっても、バランスは調整することになるので、すべて手が入ります」
●漢字のデザイン要素。
「漢字のデザイン要素は『フトコロ』『太さ』『エレメント』『重心』になります。
エレメントは、平成明朝のところで言った『線の端がスパっと切れてる』とかそういうのです」
重心の高低によって、「若い・軽快・スマート」→「年配・鈍重・堂々」と変化するという説明の後、
「ヒラギノは、クール・現代的という課題で作ったので、重心が高くなっています。
デザインを見せたとき『鳥海くん、若いねぇ』と言われて。そういう風に作ったんだけどって……(笑)」
続いて、かなのデザイン要素も説明され、これらを様々に考慮して、
「クライアントから与えられた要件を、こうやって満たしていきます」
となるのだそうです。
●字面の比較と読みやすさ。
まったく同じ文章を、さまざまな書体で組んだものがスクリーンに表示されました。
明朝体でも、仮名が大きなもの、小さめのものがあり、印象や可読性が変わります。ゴシック体になると、また変わります。
長文で比較するとよくわかりますね。
「比べてみると、小塚明朝は仮名が大きく、游明朝は仮名が小さい。長文の文章を組んだときには、游明朝のほうが読みやすいでしょう。
一方、行長が短くなると、小塚のほうが縦横がわかりやすくなります。新聞の書体なんかは、こういう感じ」
「仮名が大きいとラインが揃って見えます。明朝体でもそうだし、新ゴとかもね。
ですが、はたしてそれは読みやすいのかどうか。デザインする人は、そこを考えて組んでほしい」
「写植の本蘭明朝は、ベタで組むことを再優先に考えられているんです。
なのに、一歯ヅメで組んで『これで級数を上げられる』『目の悪い人のために、文字を大きく見せられる』と、営業が売り込んだことがあるんです。
でも、たしかに大きくはなったけど、読みづらくなってしまった。『見やすい』と『読みやすい』は違うんです」
「UD(ユニバーサル・デザイン)フォントは、仮名が大きくなってます。目の悪い人でも大丈夫なように、ということになってる。
でもね、サイトでの紹介文には、『視認性が上がる』とは書いているけど、『可読性が上がる』とは書いていない。
すごく読みにくいです」
●レタリングの実演。
最後に、鳥海さんがレタリングの実演をしてくださいました。すばらしい!
本当はみんなに生で見て欲しいけど人数的に難しいので、ということで、主催の宮地さん(大阪DTPの勉強部屋)がiPadのカメラで撮影、それがスクリーンに表示されました。
意外と見やすかったです。やるな、iPad。
「まず、鉛筆でデッサンしたものに、写経に使う写巻筆で、一気に書いちゃいます。
そこにスミを足したりしてから、コピーで拡大。原字用紙にトレスして、そこにスミを入れていきます」
というわけで、そのスミ入れの実演になります。
関西にちなんだ仮名、その中でも文字数の少ないものを(笑)、ということで、「な」「ら」。さらに、画数の少ない「ら」が選ばれました。
溝引き定規にガラス棒をあて、そのガラス棒と筆をお箸を持つように持って、書いていきます。
溝引きを使うのは写研独特の方法だそうで、他のフォントベンダーの方はびっくりされるとか。
「しゃべっていても書けますので、質問して頂いてもいいですよー。
歌っても大丈夫なんです」
とのことで、質問が受け付けられました。
「お得意の歌を一曲」(from 大石さん(なんでやねんDTP))
「いや、歌わないです(笑)。
実際は、ラジオを聞いてることが多いです。AMです」
というのもありつつ……。スミ入れを進めながら、ちょっと雑談っぽく。
「(なぜガラス棒を使うのですか?)
軸になるからですね。コンパスの軸みたいなもので、軸で支えて円を描くように書けるので」
「(時計回りに書いているように見えますが?)
工業高校の製図の授業で、心臓から遠くなるように書け、と言われて。カッターも同じです。
左利きの人は、やっぱりちょっとハンデがありますね」
「明朝体の仮名は楷書が基本。筆で書くこと。筆から離れることは、私としては勧めない」
「140年くらい続いてきたものを、もう少しだけ守りたいんですよ。
『明朝体』をやりたいのではなく、『本文書体』をやりたいんです。
その中で、今のところは明朝体がそれだということ」
「ベーシックな書体というのは、木の幹みたいなもの。
これがあればだいじょうぶだし、これが壊れると怖い」
「筆で作るのは、不自然なところをちょっと直すのにいいんです。
よくわかってない人は、デジタルだけでいける、大丈夫というけど。
筆で書くのは、自然でありたいから。止める形とか。ゆっくり入る形とか」
というあたりで、スミ入れも完成。今回の講義もおひらきとなりました。
3時間半! おつかれさまでした(これを読んでくださった方も、ホントにおつかれさまでした……)
それからも、約30分くらいかな? 前の方にみんなして集まって、今できたばかりのスミ入れや、以前に作られた原字を見せていただいたり(すっげーキレイ!)、鳥海さんの話に耳を傾けたりしていました。
これもまた楽しかったですなー。
すごく充実しててお腹いっぱいな感じですが、まだまだ1回め。あと2回もありますよ。嬉しいなぁ。
次回は11月24日。楽しみデスねー。
まだ受付はしてる……のかな? してるんじゃないかな? 無責任に言っちゃってますけど(笑)、興味を持たれた方は、是非ぜひ申し込んでみてくださいねー。