そのうちがんばる。

── ただのメモ。DTPとかプロレスとかMacとかiPhoneとか。

鳥海修の文字塾 第1回(2013-10-20)についてのメモ書き(後半)。

f:id:masa-m:20131115224748j:plain:w300,right 10月から12月まで3ヵ月連続で行われる「大阪DTPの勉強部屋」主催による、字游工房・鳥海 修さんの文字塾。その第1回のレポート……というかメモ書きの後半になります。


 前半同様、鳥海さんの言葉の引用を中心にお届けします。




【注】 しつこいようですが(すみません)、本人にも読めないきちゃない手書きメモを起こしたものです。加えて、そもそもの理解度が低い、ものすごーく頭の悪い人間が書いてます。本人としては真面目に書いてるつもりですが、内容についてはあまり信用してはいけません。ご了承くださいまし。


 では、どぞー。


 さて、休憩を挟んで、ようやく本題に(笑)。明朝体の話です。

●日本語の構成。

f:id:masa-m:20131115221340j:plain:w300,right スクリーンに、Apple社のサイトから引用した文章が表示されました。
 その中に含まれる文字は、漢字24%、ひらがな34%、カタカナ24%、アルファベット12%、記号6%という比率になっている、と分析。

「日本語には、漢字、ひらがな、カタカナ、いろいろ混ざってます。
 漢字は中国から来たもの、カタカナはその派生、ひらがなは日本でできて、英文は欧米。
 こんなのが普通に読めちゃう日本人の感性ってナニ?」

明朝体の仮名とは。

明朝体の漢字というのは、縦線が太くて横線が細くウロコがついてますよね。
 じゃあ、仮名は?」

f:id:masa-m:20131115221531j:plain:w300,right ホワイトボードにさらさらっと2通りの「あ」を書いていく鳥海さん。

「仮名も漢字と同じ様式になってるかというと、そういうのもなくはないけど、多くのものは違います。
 つまり、明朝体の仮名は明朝体じゃなく、楷書になってるんです」

 ここから「仮名」というものの成り立ちについての流れになっていきます。

「漢字を使い始めたのは、いつ頃でしょう。
 『漢委奴国王』っていうのが来たのが、西暦60年くらい?
 で、聖徳太子の頃、写経を通じて入ってきたけど、ちゃんと読めてたのかどうかはわからない」

「その後、和語を書き表すときに、漢字を変えていくようになっていきます。
 まずは、漢字に日本語を当てた。たとえば、『安』『阿』『悪』を『あ』と読もうと決める。
 こうして、初めて日本人は言葉を書き表すようになったんです」

「でも、書くのがめんどくさい。もっと簡単に。こうして、平仮名が誕生していきます。
 当時の若い女性、おしゃれで先進的な女性たちによって作られていく。
 これが、9世紀くらい。平安時代」

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「このときの平仮名は、何文字かを続けて書いていました。『連綿(れんめん)』で書くのが、当時の常識。分けて書くようになるのは、ずーっと後のことです。
 もともとの仮名は行書だったんです。明治の初めになって、初めて楷書になります」



●日本最初の明朝体。昔の活字。

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「京都・萬福寺(まんぷくじ)の鉄眼(てつげん)一切経(いっさいきょう)。
 これが、日本初の明朝体ということになります」

萬福寺はねぇ、いいんですよー。一度は行ってみるべき!
 広い部屋にずらーっと版木があって、おじさんが一人で刷ってる。
 でも、話しかけないほうがいいです。話が止まらなくなるから(笑)」

「中国から来た隠元(いんげん)禅師、インゲン豆を持ってきた人ですけど、その人に鉄眼が相談して、一切経を使う許可を得た。
 それをバラして、上に版木を重ねて彫っていったんです。仕事のない人を使ったりして、必ずしも文字の質は高くないですけど。
 泣かせるエピソードがいろいろあって……(以下、長い脱線。すごくおもしろいけど略)」

「この後、明朝体の漢字は姿を消します」

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「嵯峨本(さがぼん)というのもあります。
 本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ)俵屋宗達(たわらや・そうたつ)、角倉素庵(すみのくら・そあん)の3人で作った本ですけど、これは、木の活字で刷られている。
 もとになる文字は光悦が書いたとされてるんですが、本当は素庵じゃないか。
 どういうことかっていうと……(以下、長い脱線。おっそろしくおもしろいけど略)」

「嵯峨本は木の活字で作られていて、そのほうが校正ができたりしていいんですけど、活字で作ると(費用が)高くなるんです。木に彫るほうが簡単。で、なくなっていく」

 ばさっと略してしまいましたが(すみません)、萬福寺一切経や嵯峨本の話をされてる鳥海さんは、めちゃくちゃ楽しそうでした。

●明治の明朝体

「明治になって、中国から明朝体が入ってきました。ウィリアム・ガンブルって人が、キリスト教のために。
 これが、築地活版のもとになっていきます」

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「漢字は正方形ですね。だから正方形の活字に収まる。
 で、仮名はというと、連綿をぶった切って正方形に収めていました。
 これってどうなの……? というのが、明治10年ごろです」

「そこから30年くらいかかって、築地前期五号ができていく。
 職人さんたちが苦肉の策で作り上げていったんです。
 文字というのは、突然変異でできるものじゃないんです」

明朝体とは。

「文字というのは長い歴史の中で作られて、みんなの体の中に文字の記憶が残ってる。
 キレイな文字の感覚は、みんな持ってるんです」

「石井明朝体MM-OKL。
 これについて、品があると思う人? と聞いたことがあるんですが、全員が手を上げた。
 みんな、感覚を持ってるんです。共通感覚はある。
 目立たない文字を作ろうとするときは、そこを狙っていきます」

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萬福寺のやつ、高野切(こうやぎれ)の連綿、紀貫之の字。そういう、いろんなものが集まったものを、みんな普通に読んでるんです」

「昔の岩波の本なんかは漢字が多くてね、漢字だけを拾い読みすれば、意味が通じたりしたんです。
 漢字は言葉。平仮名がそれをつないでいく」

「日本語の漢字は四角い。平仮名は、それぞれの形を尊重する。アルファベットは少し小さい。
 役割がはっきりと決められていて、デザインされているんです」

●書体ができるまで。

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「最初に12文字作ります。
 『国』『東』『愛』『永』『袋』『霊』『酬』『今』『力』『鷹』『三』『鬱』」

「『東』の縦線の上下で四角の大きさが決まり、これが『字面』(じづら)。
 『東』の『田』の大きさで、フトコロがわかります。
 『永』は、永字八法ですべてのエレメントが入ってるとされてる。入ってませんけど。
 『酬』は、縦線が多い例として。
 『霊』は、横線が多い例として。
 『今』は、ひし形になっていて、これが一番小さく見える形。
 『三』は、画数が少ない。
 『鬱』は、画数が多い。
 など、それぞれに理由があります」

「それから、400字の『種字』を作ります。
 そして、『へん』や『つくり』を組み合わせて増やしていきます。JIS第1水準、そして第2水準へ。
 組み合わせるといっても、バランスは調整することになるので、すべて手が入ります」

●漢字のデザイン要素。

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「漢字のデザイン要素は『フトコロ』『太さ』『エレメント』『重心』になります。
 エレメントは、平成明朝のところで言った『線の端がスパっと切れてる』とかそういうのです」

 重心の高低によって、「若い・軽快・スマート」→「年配・鈍重・堂々」と変化するという説明の後、

ヒラギノは、クール・現代的という課題で作ったので、重心が高くなっています。
 デザインを見せたとき『鳥海くん、若いねぇ』と言われて。そういう風に作ったんだけどって……(笑)」

f:id:masa-m:20131115223448j:plain:w300,right 続いて、かなのデザイン要素も説明され、これらを様々に考慮して、

「クライアントから与えられた要件を、こうやって満たしていきます」

 となるのだそうです。

●字面の比較と読みやすさ。

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 まったく同じ文章を、さまざまな書体で組んだものがスクリーンに表示されました。
 明朝体でも、仮名が大きなもの、小さめのものがあり、印象や可読性が変わります。ゴシック体になると、また変わります。
 長文で比較するとよくわかりますね。

「比べてみると、小塚明朝は仮名が大きく、游明朝は仮名が小さい。長文の文章を組んだときには、游明朝のほうが読みやすいでしょう。
 一方、行長が短くなると、小塚のほうが縦横がわかりやすくなります。新聞の書体なんかは、こういう感じ」

「仮名が大きいとラインが揃って見えます。明朝体でもそうだし、新ゴとかもね。
 ですが、はたしてそれは読みやすいのかどうか。デザインする人は、そこを考えて組んでほしい」

「写植の本蘭明朝は、ベタで組むことを再優先に考えられているんです。
 なのに、一歯ヅメで組んで『これで級数を上げられる』『目の悪い人のために、文字を大きく見せられる』と、営業が売り込んだことがあるんです。
 でも、たしかに大きくはなったけど、読みづらくなってしまった。『見やすい』と『読みやすい』は違うんです」

「UD(ユニバーサル・デザイン)フォントは、仮名が大きくなってます。目の悪い人でも大丈夫なように、ということになってる。
 でもね、サイトでの紹介文には、『視認性が上がる』とは書いているけど、『可読性が上がる』とは書いていない。
 すごく読みにくいです」

字游工房のスタンス。

f:id:masa-m:20131115223944j:plain:w300,right スクリーンに、字游工房のスタンスを表す文章が表示されました。


「……宮沢賢治です(笑)」

●レタリングの実演。

 最後に、鳥海さんがレタリングの実演をしてくださいました。すばらしい!
 本当はみんなに生で見て欲しいけど人数的に難しいので、ということで、主催の宮地さん(大阪DTPの勉強部屋)がiPadのカメラで撮影、それがスクリーンに表示されました。
 意外と見やすかったです。やるな、iPad

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「まず、鉛筆でデッサンしたものに、写経に使う写巻筆で、一気に書いちゃいます。
 そこにスミを足したりしてから、コピーで拡大。原字用紙にトレスして、そこにスミを入れていきます」

 というわけで、そのスミ入れの実演になります。
 関西にちなんだ仮名、その中でも文字数の少ないものを(笑)、ということで、「な」「ら」。さらに、画数の少ない「ら」が選ばれました。

 溝引き定規にガラス棒をあて、そのガラス棒と筆をお箸を持つように持って、書いていきます。
 溝引きを使うのは写研独特の方法だそうで、他のフォントベンダーの方はびっくりされるとか。

「しゃべっていても書けますので、質問して頂いてもいいですよー。
 歌っても大丈夫なんです」

 とのことで、質問が受け付けられました。

「お得意の歌を一曲」(from 大石さん(なんでやねんDTP))

「いや、歌わないです(笑)。
 実際は、ラジオを聞いてることが多いです。AMです」

f:id:masa-m:20131115224305j:plain:w300,right というのもありつつ……。スミ入れを進めながら、ちょっと雑談っぽく。

「(なぜガラス棒を使うのですか?)
 軸になるからですね。コンパスの軸みたいなもので、軸で支えて円を描くように書けるので」

「(時計回りに書いているように見えますが?)
 工業高校の製図の授業で、心臓から遠くなるように書け、と言われて。カッターも同じです。
 左利きの人は、やっぱりちょっとハンデがありますね」

明朝体の仮名は楷書が基本。筆で書くこと。筆から離れることは、私としては勧めない」

「140年くらい続いてきたものを、もう少しだけ守りたいんですよ。
 『明朝体』をやりたいのではなく、『本文書体』をやりたいんです。
 その中で、今のところは明朝体がそれだということ」

「ベーシックな書体というのは、木の幹みたいなもの。
 これがあればだいじょうぶだし、これが壊れると怖い」

「筆で作るのは、不自然なところをちょっと直すのにいいんです。
 よくわかってない人は、デジタルだけでいける、大丈夫というけど。
 筆で書くのは、自然でありたいから。止める形とか。ゆっくり入る形とか」

 というあたりで、スミ入れも完成。今回の講義もおひらきとなりました。
 3時間半! おつかれさまでした(これを読んでくださった方も、ホントにおつかれさまでした……)


f:id:masa-m:20131115224409j:plain:w300,right それからも、約30分くらいかな? 前の方にみんなして集まって、今できたばかりのスミ入れや、以前に作られた原字を見せていただいたり(すっげーキレイ!)、鳥海さんの話に耳を傾けたりしていました。
 これもまた楽しかったですなー。



f:id:masa-m:20131115224444j:plain:w300,right すごく充実しててお腹いっぱいな感じですが、まだまだ1回め。あと2回もありますよ。嬉しいなぁ。
 次回は11月24日。楽しみデスねー。


 まだ受付はしてる……のかな? してるんじゃないかな? 無責任に言っちゃってますけど(笑)、興味を持たれた方は、是非ぜひ申し込んでみてくださいねー。

 → 大阪DTPの勉強部屋 » 鳥海修の文字塾 第2回のお知らせ